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2019年9月27日金曜日

高柳篤子作品集





陽があたまるとさびしがる耳
香から蠅ひそと飛ぶ言葉あり
机の下にもぐり込み全身の肌目にむらがる戀
海つてすごいやわたしより青いや
秋だから太陽までズボンをはいて来る
猫の尻尾は 鉛筆けずり 野原でまわせ 野原でまわせ
ラリルレの接吻 ラリルレの水 ぐさりと杉の葉の影が来る
どうすればいいは紫だ ごめんなさいも紫だ
赤いピストルほしいよ・赤いピストルほしいよ
※作品集より抜粋

青山五丁目の戦災住宅を朝五時起きで渋谷まで走り、ハチ公前に並ぶヤミの牛乳やさんへ。病気の姉のために一本か二本買わなければ、と。なのに、その朝は牛乳やさんがいなくて、牛乳やさんのところに大きな唐草模様の風呂敷をひろげ、ガリ版刷りのペッチャンコの雑誌を売っている二人のおじさんがいました。橋本夢道というおじさんと、石田波郷というすさまじい切れ味のおじさん。二人のおじさんの前にずっと立っている私以外誰もいません。お姉さんの牛乳がなければ、もう死にそうな状態でした。それなのにお母さんが毎朝私にくれる牛乳代を全部、橋本夢道さんの雑誌を買ってしまったのです。お母さんやお姉さんに、どういうふうにあやまろうかと心配を抱きおじさんたちの二冊の本をだき、家にかえりました。
※高柳篤子(広岡まり)の書信抜粋

高柳篤子作品集 編/岩片仁次 夢幻航海文庫 より


寄贈、ありがとうございました。
これは自由律俳句ですね。面白いです。
「肌目にむらがる戀」などは妙に切迫感があります。
書信の抜粋、こういう何気ないエピソードの中にいる故人は、
どうしてなつかしく慕わしげに思えるのでしょう。
本の中でしか知らない人なのに。そんなことを考えていました。

橋本夢道は富沢赤黄男の「詩歌殿」にも参加していましたね。
この俳誌はものすごいラインアップだったはず。
と、思って調べてみたら、関西俳句協会の記事にありました。

「詩歌殿」創刊号 青木亮人


(文:久坂夕爾)


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