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2023年4月29日土曜日

ドライブ・マイ・カー


先月の目の手術による不快感・不調がようやくおさまりつつあります。


ひと頃話題になった映画「ドライブ・マイ・カー」(監督:濱口竜介、脚本:大江崇允をamazonプライムでようやく見る。いい映画でした。

本筋は妻を失った男の物語なのですが、そこに、チェーホフの「ワーニャ叔父さん」、亡き妻がベッドでつぶやいた物語(前世がヤツメウナギの少女のエピソード)が絡んできます。異なる物語が平行するさまは、ああやっぱりこれは村上春樹だ、と思わせました。

特に車の中の描写がよかった。専属のドライバーが後部座席の主人公を目だけで追う姿、夫である自分でさえ知らない、妻の物語の続きを語る青年の顔、たばこの灰を飛ばすためにサンルーフにのばした二つの手。

実は、「ワーニャ叔父さん」は、若かったころの私にはとてもわかりにくい話だったのです。なぜワーニャ叔父さんはピストルなんて持ち出して騒ぎ、あまつさえ自殺まで考えたのだろう、そこがよくわからず、登場人物の心情にうまくついていくことができずに投げ出した記憶があります。映画のあと再度読み直したのですが、今度は心情を理解できたと思います。昔わからなかったものを再読したとき、私はいったい今まで何を読んでいたのだろう、と、愕然とすることは時折ありますよね。最近では井筒俊彦の「意識と本質」など。


チェーホフを「余白の多い作家」とどこかの評論家が言っていたのを思い起こします。そして、村上春樹も(特に短編は)余白の多い、悪く言えばほのめかしの多い作家です。(「象の消滅」なんて面白くて好きですけどね。)


ところで、「ドライブ・マイ・カー」の3つの物語のなかで、現実の不可解さ・やるせなさを強烈に私に伝えてきたのは、完全にフィクションであるヤツメウナギの少女のエピソードでした。また「ドライブ・マイ・カー」はビートルズの曲名だと思いますが、同じくビートルズの曲名が題名になっているかつ映画にもなったものに「君の鳥はうたえる」(and your bird can sing)という小説があります。佐藤泰志。こういう小説が書きたかったと思わせるほど「海炭市叙景」はいい短編でした。


(文:久坂夕爾)